家族や友人の借金の連帯保証人になって、困っている方も多いでしょう。
「絶対に迷惑をかけないから…」という言葉を信じて連帯保証人になったのに、請求書が届くとこれからどうしようという気持ちでいっぱいになると思います。
連帯保証人は借金をした本人と同等の返済義務を負うことになり、主債務者が逃げたり、返済しなくなると連帯保証人に請求されます。
残念ながら連帯保証人は、借金の請求を拒否することができない立場です。
では、借金の請求をされたら完済するまでずっと払い続けなければならないかというと、そういうわけではありません。
借金が時効になる条件を満たしていれば、連帯保証人も借金の返済をしなくて済む制度があるのです。
それが時効の援用です。
連帯保証人が条件を満たしている場合でも、主債務者が条件を満たしている場合でも、連帯保証人が時効の援用を主張することができます。
連帯保証人になって、借金の返済に困っているという方は借金が時効になる条件に当てはまるかどうか確認してみましょう。
連帯保証人の立場を再確認!連帯保証人になるのは借金を背負うのと同じ
連帯保証契約は「賃貸契約」「奨学金貸与」「銀行融資」「闇金」などで採用されている契約方法です。
貸す側(債権者)としては、債務者が支払えない場合には連帯保証人に請求ができるので、返済してもらう確率が上がる保証契約は有効な手段といえます。
連帯保証人になる人は親族(親、子、兄弟、叔父など)や友人であることが多いです。
相談を受けて熟慮したうえで連帯保証人になった人もいますが、次のようによく考えることなく連帯保証人になってしまったという人もいます。
- 連帯保証契約について詳しく説明を受けていない
- 本人が返すと思っていたから深く考えずに署名・捺印した
- 関係悪化を避けたくてとりあえず承諾してしまった
- 「名前だけ貸してくれ」と言われた
- 知らない間に連帯保証人になっていた
連帯保証人になってしまうと、債務者が返済できなくなったときに代わりに返済しなければなりません。
連帯保証人になると返済義務が生じ借金の返済を断ることはできない
連帯保証人になると、具体的にどのような契約になるのかを見てみましょう。
「債権者と債務者」そして「債権者と連帯保証人」は、それぞれ別々の契約を交わしています。
- 債務者の借金=主債務契約
- 連帯保証人が保証する借金=保証債務契約
連帯保証人になるということは、主債務者の借金のために契約しているというより、自らも返済義務の発生する債務契約をしたと考えてください。
さらに連帯保証人は、債権者に対して返済を断ることができません。
特徴 | 詳細 |
---|---|
催告の抗弁権がない | 債権者は債務者本人でも連帯保証人でも、好きな方に請求することができる。 主債務者が返済できなくなった場合、連帯保証人は債権者から請求されても「私より先に主債務者に請求してください」と要求する権利がない。 |
検索の抗弁権がない | 主債務者に返済能力があるのに、連帯保証人に先に請求されても「主債務者が返済するお金を持っているから、そっちに請求してくれ」と要求する権利がない。 |
分別の利益がない | 主債務1000万円を4人の連帯保証人で保証する場合でも、1人250万円の保証ではなく、1000万円返済完了までそれぞれに返済義務がある。 1人250万円返しても、借金が残っている限り請求される。 |
これらを見て分かるように、主債務者が返済できなくなった・債権者が回収できないと判断した場合、連帯保証人は請求されても拒否する権利すら持つことができないのです。
連帯保証人の返済義務についてよくある質問
- 主債務者が死亡した場合、連帯保証人に返済義務がありますか?
- 主債務者が死亡しても、連帯保証人は借金を全額返済しなければなりません。
- 請求書が届いたけど、主債務者本人と連絡が取れない場合はどうなりますか?
- 主債務者が返済しないまま連絡が取れなくなってしまった場合でも、連帯保証人は債権者からの請求に応じる義務があります。
- 肩代わりする借金を返済せず放置したらどうなりますか?
- 連帯保証人か債務者本人が完済するまで、借金はなくなりません。
- 連帯保証人が負った借金を返済せずに済む方法はありますか?
- あります!条件をクリアすれば「時効援用」をすることで借金の返済義務を放棄することができます。
- 民法で定められた借金の時効期間が過ぎている
- 自身が「借金の承認」を一度もしていない(一部弁済や支払猶予願をしていない)
- 債権者から「裁判上の請求」をされていない(裁判所から判決を受けていない)
- 時効の援用の意思を債権者(貸主)に示す
- 主債務者が行方不明になり、通常の請求を受け返済をしている連帯保証人
- 裁判で判決をとられ返済を続けている連帯保証人
- 子供の奨学金返還を長年に渡って代わりにしている連帯保証人
- 一部弁済
借金の一部を少額でも返済した - 支払猶予願
ボーナスまで待ってくれたら返せる等、返済の意思を前提に交渉した - 返済の意思表示
返す意思を問われ、毎月の返済可能額を具体的に伝えた。 - 連絡の取れない主債務者が、一度も時効中断事由に該当する行為をしていないのか。
- 主債務者の元に裁判所から請求書類(訴状・支払督促状)が届いていなかったか。
- 主債務者の借金の時効期間が確実に経過しているのか。
- 連帯保証人は主債務者と同じように返済義務がある。
- 時効の援用をすれば連帯保証人も借金の返済をしなくて済む可能性がある。
- 時効を援用するには、主債務者と連帯保証人に条件がある。
- 連帯保証人は主債務者の時効援用権を持っているから、主債務者の時効を援用し、自らの借金返済義務も放棄することができる。
- 時効中断事由に要注意。
連帯保証人が負った借金は時効援用という方法で返済義務がなくなる
連帯保証人が債権者から請求を受ける際、それまでに至る経緯や取引内容はそれぞれです。
「過去に知人の借金の連帯保証人になったことがあり、何年もして突然督促状が届いた。知人とは長期間が連絡が取れていない。」
「子供の奨学金の連帯保証人になったが、返還当初から子供ではなく自分(親)がずっと返還している。」
このように債務者本人が長期間借金をしている場合は、借金の時効を迎えているかもしれません。
債権者(貸主)に「私のこの借金は時効が完成したので、私には返済する意思がありません」と宣言する消滅時効の援用を行えば、連帯保証人であっても返済しなくて済む可能性があります。
ただし、時効の援用をするには条件を満たしていなければいけません。
連帯保証人が借金の時効援用をする場合の時効完成条件
時効の援用については、民法145条に記されています。
客観的事実により時効の完成が明らかであったとしても、裁判所はそれだけで時効に基づく裁判をすることはできない。当事者が時効の利益を受ける意思を表明することが必要。
※注釈・参照)※借りた人の中には「時効であっても借りた金は返したい」と考える人もおり、借りた人が自分から消滅時効を援用しない限り借金の返済義務は消えないという考え方。
この消滅時効の援用が完成するには、4つの条件があり全てを満たしていないと認められないので、確認しておきましょう。
借金の時効期間など詳しい条件は次の記事でチェックしてください。
借金の時効援用の方法!時効成立条件と通知方法・消滅時効の援用費用を解説
連帯保証人になっている借金でも、連帯保証人が上記の条件を満たしていれば時効援用することができます。
ただし、債務者本人が借金の承認をしていたり、裁判上の請求がされていたりすると時効が中断してしまうので注意が必要です。
明らかに時効期間が過ぎている借金ならば、時効援用を視野に入れて考えるのもいいかもしれません。
主債務者が条件を満たしている場合でも連帯保証人が時効援用できる
連帯保証人が時効援用できる条件を満たしていれば、時効を援用することが可能です。
それだけでなく、主債務者の時効完成条件が揃っている場合でも、連帯保証人が主債務者の時効を援用することができます。
主債務者の借金がなくなれば、連帯保証人の返済義務もなくなります。
これは、連帯保証人が時効援用権を持っているからです。
「時効によって直接利益を受ける権利」という一般基準によって当事者(援用権者)かどうかを判断。権利を持つ者は債務者・連帯債務者・保証人・連帯保証人に限定され、借金返済の義務を免れる者として認められている。主債務者の借金の時効を援用して、直接その利益(返済義務を放棄すること)受けることができる連帯保証人は、主債務の時効援用権者ということになる。
たとえ連帯保証人が借金の返済をし続けていたとしても、債務者本人が返済していなければ「債務の承認」をしていないとみなされます。
ただし連帯保証人が主債務者の時効を援用する場合、主債務者に「借金の承認」や「裁判上の請求・判決」がなかったことを、債権者に証明しなければなりません。
連帯保証人として気をつけるべき点を押さえておきましょう。
主債務者の借金の承認がなかったことを証明するのが重要
借金を返済する時、直接債権者の元へ訪問し返済している人はほとんどいないでしょう。
借金の種類にもよりますが、ATM・振込用紙での返済など債権者側から見ると、誰が返済しているかは重要ではないので連帯保証人が返済していても分かりません。
連帯保証人が代わりに返済していても、その事実を示さないと主債務者の「借金の承認」がなかった、ということが証明できないのです。
これらに当てはまる方は、主債務者の時効を援用する妨げにならないように、連帯保証人が返済したことを証明する「振込明細書」などを残しておくことをオススメします。
連帯保証人が時効を援用できなくなる条件「時効中断事由」
連帯保証人が時効を援用できる条件として、「債権者から裁判上の請求をされていない」ことと「自身が借金の承認を一度もしていない」ことがありました。
つまり裁判上の請求をされたり、借金の承認があった場合、時効を援用できなくなってしまいます。
これら2つの行為を時効中断事由と呼び、時効中断事由が認められると時効の進行がリセットされ、さらに時効期間が延長されてしまうのです。
借金の承認 |
以上の例のように借金の承認を取られれば、その時点で時効期間がリセットされ5年延長される。 |
---|---|
裁判上の請求 | 債権者が裁判所を通して、訴訟や支払督促手続きを行うもの。 その場合、時効が5年延長される。 さらに、これにより裁判所の判決が下ると、借金の時効は判決日から10年に延長され、強制執行(財産差押など)が行われる。 |
実は主債務者に時効中断事由があった場合と、連帯保証人にあった場合とで、互いにもたらす影響と結果が違うのです。
借金の時効中断事由による影響は連帯保証人の方が厳しい
実は主債務者に時効中断事由があった場合と、連帯保証人にあった場合とで、互いにもたらす影響が違います。
まずは下の表をご覧ください。
主債務 | 保証債務 | ||
---|---|---|---|
借金の承認 | 主債務者が承認 | 時効が中断する | 時効が中断する |
保証人が承認 | 時効が中断しない ※(大判昭12.11.2) |
時効が中断する | |
裁判上の請求 | 主債務者に請求 | 時効が中断する | 時効が中断する ※民法457条 |
保証人に請求 | 時効が中断する ※民法458条・434条 |
時効が中断する |
※民法457条・・・主債務者に対する請求その他の事由による時効の中断は保証人に対しても効力を生ずる
※民法458条・434条・・・連帯債務者(主債務者・連帯保証人)の1人に対する請求は、他の連帯債務者に対しても絶対的効力を生ずる
※大判昭12.11.2・・・保証人が借金の承認をしたり、債務の一部を返済した場合でも主債務の時効は中断しない。保証債務の時効中断の効力が主債務に及ぶのは、裁判上の請求に限られる。
基本的には主債務者か連帯保証人のどちらかが時効中断事由に該当すると、両方の時効が中断されてしまいます。
しかし、保証人が「借金の承認」をした時に限って見れば、主債務者の時効の進行は中断しないことが分かります。
つまり連帯保証人が借金を返済してしまっても、主債務者の時効は進行しつづけて、時効期間が経過すると時効の援用ができるというわけです。
反対に主債務者が時効完成間近に一部弁済をしたり、返済意思を表示してしまうと、連帯保証人の時効の進行もリセットされ延長されてしまうので、時効援用には主債務者の借金の承認がなかったかの確認がとても重要です。
時効経過後に主債務者が借金の承認をした場合、連帯保証人は時効援用できる
連帯保証人が借金の承認をしたときを除き、どちらかに時効中断事由が該当すると時効は中断されると説明しました。
ただし時効期間経過後に「借金の承認」があった場合は状況が異なります。
時効がすでに経過したあとに主債務者が借金の返済をしたり、返済意思を示した場合、主債務者は時効援用件を失ってしまいますが、連帯保証人の時効援用件は失われません。
主債務 | 保証債務 | |
---|---|---|
時効期間経過後に 主債務者が債務を承認した |
時効援用権を喪失する | 時効援用権を失わない |
つまり、連帯保証人は時効の援用ができるということです。
時効が過ぎる前と後では、借金の承認による影響が異なるので注意しましょう。
主債務者ではなく連帯保証人に裁判上の請求をされることもある
裁判所から、訴状や支払督促書類が届くと時効の進行がリセットされ延長になるのですが、この請求によって判決を受けると、対象者(主債務者または連帯保証人)によって結果が変わります。
判決の対象者 | 主債務 | 保証債務 |
---|---|---|
主債務者 | 時効の進行がリセットされ、そこから10年に時効期間が延長される。 | 時効の進行がリセットされ、そこから10年に時効期間が延長される。 |
連帯保証人 | 時効の進行はストップしない。 保証債務に対する時効延長は主債務の時効期間に影響を与えないとされている。 |
時効の進行がリセットされ、そこから10年に時効期間が延長される。 |
債権者によっては、主債務者より連帯保証人の方が返済能力があると判断し、主債務者ではなく連帯保証人に対し裁判上の請求を起こすこともあるでしょう。
このような場合、連帯保証人は主債務者に代わり返済義務を負うことになります。
しかし、主債務者の時効はストップしません。
※民法で定められているのではなく、過去の判例・裁判例と照らし合わせた答えですので、今後変更される可能性はゼロではありません。
このように主債務者が時効を援用できる時期と、連帯保証人が時効援用をできる時期が異なるパターンもあり得るのです。
連帯保証人に対して判決が下っても債務者の時効を援用すれば借金がなくなる
連帯保証人に対して判決が下った場合、時効期間が10年延長されます。
ですが、これも主債務者が時効援用できる条件を満たしていれば問題ありません。
連帯保証人は主債務者の時効を援用する権利を持っているので、主債務者の時効を援用すれば主債務者も連帯保証人も借金はなくなります。
連帯保証人が主債務の時効援用をするなら専門家(弁護士・司法書士)へ
もし自分の借金を時効援用するなら、「借金の承認」や「裁判上の請求」があったかはすぐに確認できるでしょう。
しかし、連帯保証人が主債務者の借金を時効援用するためには、クリアしなければならない問題が山積みです。
連帯保証人として時効を援用するなら、法的に代理権を持つ専門家(弁護士・司法書士)に依頼しましょう。
弁護士と司法書士では業務内容や利用料金が異なるので、どちらか合う方を選んで相談してください。
司法書士 | |
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業務内容 | 140万円以下の債務について時効援用を代行する。 司法書士名義で時効援用通知を作成・郵送でき、時効完成の有無の調査・債権者とのやりとりも代理でできる。 債権者との訴訟問題に発展した場合、簡易裁判までの代理権がある。 ※自己破産や個人再生については書類作成代理権のみ |
利用料金 | 1社3万~4万円 2社以上だと1社につき2万~3万 |
弁護士 | |
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業務内容 | 全ての時効援用に必要な業務の代理ができる。 時効援用に失敗し債務整理・自己破産等になっても対応できる。 |
利用料金 | 3万~8万円 ※依頼する内容や弁護士によって金額は様々 |
このように、複雑な調査・書類のやりとりを、自分に代わって全てやってくれます。
費用もそれほど高くないので、時効援用をするなら専門家に相談することをオススメします。
※行政書士の場合は文書作成のみに代理権を持つので、確実に時効完成条件が揃っている場合には有効で費用も抑えられます。
【まとめ】肩代わりした借金は時効援用をして連帯保証人から解放されよう
最後に、連帯保証人の時効援用についてポイントをまとめてみました。
長期に渡って主債務者の代わりに借金の返済をしている連帯保証人、何年も前に連帯保証人になった借金の督促を突然受けた人などは、主債務者の時効が完成している可能性もありますので、弁護士・司法書士など専門家に相談しましょう。
肩代わりした借金の時効について相談するならアヴァンス法務事務所がオススメです。